ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

ベーリング海北部セントローレンス島での海鳥調査

セントローレンス島はベーリング海北部に位置していて、およそ200万羽の海鳥が生息しています。今回、私たちは、まだあまり調査がされていないこの地域で海洋高次捕食動物の研究プログラムを開始し、ここで繁殖する海鳥の生理・生態を明らかにする目的で野外調査を実施しました。

 

セントローレンス島の北側の海岸にある村サヴォンガに飛行機で入り、7月21日から8月27日まで滞在して調査を行いました。でこぼこしたツンドラの草原を全地形対応車(ATV: All Terrain Vehicle)を運転して移動し、いくつもの海鳥の繁殖地を毎日訪れました。今回の国際研究チームのメンバーは国立極地研究所から2名(日本人とフランス人)、アラスカ大学フェアバンクス校から2名(アメリカ人とロシア人)、現地エスキモーのガイド2名です。セントローレンス島のユピックエスキモーはその生活の糧の多くを、自給のための狩猟(subsistence hunting)から得ています。サヴォンガで暮らす人たちにとって、季節ごとに島を訪れる様々な渡り鳥や海生・陸生哺乳類が食糧として、また彼らの文化の中でいかに大切なのか、ガイドや村の人たちと話をするなかで感じ取ることができました。一方、村の人たちは、島での海鳥の分布や生態に関して豊富な知識をもっており、それは私たちの調査を効果的に進める上でとても役立つものでした。また、村の学校を訪れて私たちの研究について紹介し、先生と協力して生徒たちにも調査に部分的に参加してもらうなど、現地の生徒や先生へのアウトリーチ活動も実施することができました。

 

調査にあたって、まず海岸沿いに点在する繁殖地を入念に見回って場所を選び、その後、5種の海鳥の捕獲を開始しました。対象とした5種は、ハシブトウミガラス、ウミガラス、ミツユビカモメ、エトロフウミスズメ、コウミスズメです。鳥を捕獲したら、体重や体の各部の計測を行い、生理学的な分析や汚染物質の蓄積濃度の分析のために血液や羽根、吐き戻しの餌などのサンプルを採取しました。一部の個体については、鳥の行動・移動を調べるために、GPS記録計やジオロケータ(照度から鳥の位置を記録する装置)を取り付けました。各種サンプルについては5種をあわせて200羽以上から採取することができました。繁殖成績がどの種もあまり良くなかったことから鳥に装着した記録計の回収率は期待していたほど高くはありませんでしたが、餌取り中の親鳥のGPS移動軌跡のデータをなんとか得ることが出来ました。ジオロケータは1年後の2017年夏に回収し、冬の間の鳥の渡りルートを明らかにする予定です。これから数ヶ月間かけて、取得したサンプルや行動のデータを分析していくのが楽しみです。

高橋晃周・国立極地研究所(テーマ6実施担当者)

島の海岸沿いに点在する海鳥の大繁殖地(ウミガラス類、ミツユビカモメ)

島の海岸沿いに点在する海鳥の大繁殖地(ウミスズメ類)

崖の岩棚で繁殖するハシブトウミガラス(左)とウミガラス(右)

海岸の岩のすき間で繁殖するエトロフウミスズメ(オレンジ色の嘴の鳥)とコウミスズメ

鳥の捕獲作業は海岸の崖の上で実施する。

渡りルートを調べるためにジオロケータ付き足環をハシブトウミガラスに取り付ける。

作業は時には真夜中近くまでかかる。この日は満月が輝いた。

調査地周辺には海鳥を狙うホッキョクギツネがよく現れる。