ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

グリーンランド北西部、氷床上の観測2 -ボードイン氷河における観測-

グリーンランド北西部のボードイン氷河における観測が無事終了しました。2017年の観測では観測隊が2つのチームに分かれ、それぞれが異なるベースキャンプを置く形で行われました。一方のチームは北海道大学の研究者5人とスイス連邦工科大学(ETH)の研究者1人からなり、氷河東縁部のキャンプを拠点にカービングフロントを中心とする氷上での観測を行いました。ETHから来た3人の研究者からなるもう一方のチームは、カービングフロントに面した小高い山の山頂部に第2キャンプ(通称Hill)を置き、レーダーとドローンを用いて氷河の流動を監視しました。今回の観測では各チームが互いにサポートしあうことによって、優れたチームワークを発揮することができました。

観測が始まってすぐに、カービングフロントから200mの氷河上に、氷河を横断する大きなクレバス(氷河の裂け目)を発見しました。翌日の晩、このクレバスに沿って氷河が崩壊し、巨大な氷山が海へ切り離されました。キャンプにいた私は雷のような轟音を耳にして、氷屑と高く舞い上がる水しぶきを目にしました。こうした現象は、切り離された氷山が海水に沈み込み、津波を誘起することによって起こります。これ以降、カービングフロントが比較的安定したおかげで、氷河末端から海洋観測用の測器を設置できるようになりました。

その後7月13日に、私達は再び興味深い現象に遭遇しました。私達のキャンプの隣には川が氷河にせき止められてできた湖がありました。その日の夜、湖を囲む氷壁の崩壊によって湖に津波のような大きなうねりが発生しました。その翌日の7月14日、数十万㎥もの湖水が氷河の底に吸い込まれてゆき、数時間のうちに湖が完全に消え去ってしまったのです。このような現象を氷河湖決壊(GLOF)現象と呼びます。GLOF発生直後、Hillからカービングフロントを監視していたスイスチームの研究者より、濁った水が氷河から排水されている様子が伝えられました。これは私達が予想した通り、氷河前縁の海洋と湖がつながっていることを示唆するものでした。

氷河上と周辺に設置した観測機器によって、これら貴重な現象の詳細を記録することに成功しました。今後これらのデータを解析することによって、氷河・氷河湖・フィヨルドのダイナミクスに関する重要な知見が期待できます。2013年以来稼働した掘削孔の測定装置から回収されたデータも含め、様々な観点から氷河・海洋相互作用に関する興味深い発見ができるのではないかと期待しています。

エヴゲニ・ポドルスキ-/福本峻吾(北海道大学)

ボードイン氷河末端、カービングフロントの様子

氷河末端部の巨大なクレバス

排水前の湖の様子

排水後の湖の様子

湖水の流出によって空になった湖の様子。表面の細かい凹凸は鍾乳洞の内部を思わせる